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Ideal Home アイデアル・ホーム

アメリカ映画 (2018)

ゲイのカップルが男の子の養子をとる映画といえば、日本では、スウェーデン映画『Patrik 1,5(パトリックは1.5歳)』(2008)やアメリカ映画『Any Day Now(チョコレートドーナツ)』(2012)が知られているが、何れも、養子となるのは、子供とは言えない青年。「小学生を期間限定で押し付けられている間に養子にしたくなる」というパターンの映画は、私の知る限りでは、カナダ映画『Breakfast with Scot(スコットと朝食を)』(2007)とこの映画ぐらい。『スコット』では、有名な元ホッケー選手と弁護士のカップル、この映画では、TVのCMで有名な俳優とCM監督のカップル。片方が有名人で、片方が実務家という点では似ている。しかし、偶然のことから預けられることになる少年は、両者で全く異なり、スコットの方は、死んだ母の真似をすることが大好き人間。だから最初からゲイ・カップル以上にLGBT(ホモというよりトランスジェンダーに近い)。一方、この映画のビルことエンジェルは、ホモっ気ゼロの少年。そして、映画の焦点は、少年ではなく、そうした少年を預かることになった個性豊かな2人のゲイの言動に当てられる。だから、少年は、その起爆剤でしかない。ビルは、エンジェルという名前が恥ずかしくて、名前を告げるのは映画が始まってから27分も経ってから。それまで、少年はほとんど口をきかない。名前を言わないような「孫」を突然押し付けられて戸惑う2人が 映画を進行させる。ビルと呼ぶことで取り決めができると、ビルはタコベルに対する異常な嗜好を示し、学校では自ら望んで孤立して担任を心配させ、児童保護サービスの女性とも問題を起こす。それが、さらに映画を進展させる。そして。ようやくビルが2人と仲良くなった頃、彼が預けられる原因となった「父親の収監」が突然終了し、釈放された父はビルを連れ去ってしまう。映画の終盤は、この予想外の出来事をめぐり、2人の間の葛藤と、ハッピーエンドの結末を描く。

ニューメキシコ州アルバカーキのホテルで、ある男が逮捕されそうになる。男は11歳になる息子を窓から逃がし、20年間音信不通だった父エラスムスの元に行かせる。その父は、著作やCM出演で人気絶頂の五十路の男で、アルバカーキから100キロほど離れたサンタフェ郊外に豪邸を構え、若干年下のCM監督のポールと一緒に暮らしていた。そこに、突然、その少年が現われ、手に持っていたホテルの聖書には、父親の走り書き、その少年が孫である旨 書いてあった。エラスムスは、息子に子供があったことすら知らないので、いきなりの出現に驚く。ポールにとっても同じで、ゲイ友と2人だけの生活に、「年少の子供」という存在が割り込むことに 危機感を覚える。しかも、少年は無口で、名前を訊かれても答えず、とりあえず預かるにしても、学校にも行かせられない。エラスムスは刑務所に出向いて息子に面会し、聖書に名前を書いたと教えられる。名前は、愛情表現の普通名詞だと思っていたエンジェル(天使)だった。少年は、その名前で呼ばれることを拒否し、ビルという名を希望する。以後、少年は非公式にビルとなった。ビルは、タコベルでの食事が大好きで、通い始めた学校では孤立して誰とも口をきかない。心配したエラスムスは、誕生日でもないのに、派手な誕生パーティを開いて人気者にしてやる。この頃から、ビルは2人に対し心を開き始める。学校での「両親」をテーマとした発表は、ユニークな内容で生徒を喜ばせ、教師を怒らせる。そんな楽しい日々も、父親が優良な受刑者として牧師に気に入られ、アリゾナ州で教会の手伝いをするという条件で早期釈放されたため、クリスマス・イヴの夜に終わりを告げる。ビルは、父親にさらわれる形でいなくなり、残された2人にはなすすべもない。ビルの父が泥酔状態で事故を起こし、同乗していたビルが負傷して入院するまでは。この無謀な運転により、父親は刑務所に再収監され、エラスムスとポールが起こした裁判で、ビルの親権が認められる。

ジャック・ゴア(Jack Gore)は2005年5月19日生まれ。『Ideal Home』の撮影開始は2016年5月11日なので、撮影時は11歳。これほど そばかすの多い子役は記憶にない。役柄上、顔の表情がほとんど変わらず、無表情か仏頂面が多い。それでも、あくが強過ぎて演技が霞んでしまったエラスムス役のスティーヴ・クーガンよりは、よほど現実味がある。ジャックは、TVのシリーズもので活躍してきた子役で、本格的な映画出演はこれが初めて。翌2017年には、『The Kids Are Alright』の主役を務め(右の写真)、2018年には、『Rim of the World(リム・オブ・ザ・ワールド)』の主役を演じた。
  


あらすじ

ベッドで11歳の少年が寝ている。少年は、ドアが激しくノックされる音で目が覚める(1枚目の写真)。「アルバカーキ警察だ〔ニューメキシコ州〕。ドアを開けなさい!」。少年は飛び起きると、ソファで寝ていた父を起こす。ここはホテルの1室らしい〔それにしても、なぜ父がベッドで少年がソファでないのか?〕。目が覚めた父は、「逃げないと」と言い、マットレスの下に隠しておいたお札の束〔束と言うには薄すぎる…〕をポリ袋に入れると、ベッドサイドに置いてあった本に何か書き込む〔本は、アメリカのホテルに定番の聖書〕。父は、ドアと反対側の窓〔「片上げ下げ」式〕を開けると、そこからポリ袋と息子のジャンパーを外に投げる。次に、嫌がる少年を足から先に窓の外に出し、シャツをつかんでぶら下げ(2枚目の写真)、手を放す。2階の窓からなので、問題なく着地する。ところが、父が外に出ようとすると、上の窓が落ちてきて胴体を挟んでしまい、身動きが取れなくなる。逃げることをあきらめた父は、「聖書の表紙の裏にサンタフェの住所が書いてある。タクシーをつかまえて、そこに行け」〔サンタフェまでは約100キロ〕と言う。「イヤだ!」。「その方が、児童保護サービスより いいぞ。それくらいは、俺の言うことを信じろ。俺は世界一の親爺じゃないが、お前を愛してる」。少年は、窓から半身突き出した形の父の顔目がけて、舗装面に落ちていた小粒の石や砂を一握りぶつける。そして、「いつも、しくじってばかりじゃないか!」と怒鳴ると、父が投げた2点をつかむと、肩を怒らせて立ち去る(3枚目の写真、赤の矢印はポリ袋と服、青の矢印は身動きの取れない父)。その後、父は、踏み込んだ警察によって逮捕される。
  

そして、タイトル。TVコマーシャルの人気者〔という設定〕のエラスムスの静止画が何枚も映り、その後、カーボーイ姿で馬に乗ったエラスムスがカメラに向かって宣伝文句を言い、CM監督のポールが指示を出す。エラスムスは、文句が多くて、ポールに反対ばかりしている。ここで一旦カメラはアルバカーキに戻る。ジャンパーを着た少年が歩道を歩いていると、連行されてきた父とニアミス。父は、息子を見ると、僅かに首を横に振り、無関係を装うよう伝える。そこで、少年は、素知らぬ顔をして前を横切る(1枚目の写真、矢印は父)〔父は、起きた時のままなので、ズボンをはいていない〕。場面は再び撮影現場。エラスムスが、馬に乗り、棒のついた木の皿にメキシコ風の料理を乗せ、「さあ召し上がれ」と言った後に、“cock hound”〔色々な意味があるが、何れもセックス、男根、ゲイと結びついている〕と言ってしまい、ポールはすぐに「カット」と叫ぶ。その後、料理の演出の仕方についてエラスムスが文句を言い、ポールは、そういう話は事前のミーティングにちゃんと出てきて言うべきだと批判する。ポールの横にいた助手が、「家でもこうなんですか?」と訊くと、「いいや、こんなに意気投合なんかしない」と予想と反対の答えが返ってくる。「なぜ、別れないんです?」。「きっと、そうなる。だが、そばにいて、彼が死ぬのを見たい気もするな」。エラスムスとポールはゲイで、エラスムスの豪邸に2人で住んでいる。そして、場面はエラスムス邸へ。CM撮影の終了を記念したパーティのため、車が集まっている(2枚目の写真)。廊下での話し合い。エラスムス:「休戦しないか?」(3枚目の写真)。ポール:「いいね。ありがとう。やっとだな」。エラスムスは、最後の言葉に引っかかる。「そんな前から交戦状態だった?」。「また一戦構える気か?」。「君は、ずるいやり方で、それとな~く蒸し返そうとするが〔I think you are manipulative and passive-aggressive〕、今は休戦だ」。
  

少年は、父が教えた住所に着き、中に入って行く。制止する者は誰もいない(1枚目の写真)。パーティは、屋外で行われている。長いテーブルの両端にエラスムスとポールが座り、その間に左右17名ずつの招待客が座っている。ある程度食事と会話が進むと、サンタフェの市長が立ち上がり、ホストの2人に乾杯〔toast〕を、と呼びかける(2枚目の写真、矢印)。その頃、少年は、サイドボードに置いてあったワイングラスから白ワインを飲んでみて、不味かったのでグラスに吐き出したり、聖パドヴァのアントニオの陶器の人形(幼いキリストを聖書の上に乗せている)の、キリスト像を指で押し(3枚目の写真、矢印)、床に落としたりする。悪気はないのだが、善悪の区別が身についていない様子だ。
  

家の中には誰もいないことが分かったので、少年は外に出て、華やかなテーブルに向かう。そして、テーブルの一番手前の端に座っている女性の肩を黙ってつつく(1枚目の写真)。「あら、あなた誰?」。返事はない。少年は、代わりに、聖書の表紙の裏を見せる。ちらと呼んだ女性は、斜め横にいるエラスムスに渡す。エラスムスは、「私の名前のスペルを間違えるとは」と文句を言い、読み始める。「エスムスへ。これは、あんたの孫だ」。この「孫」という文字に、エラスムスは目を剥く(2枚目の写真、矢印は聖書)。そして、「お父さん、ここにいるのかい?」と少年に尋ねる。首を横に振る。「ここに来て、立ち去ったのか? 君の名前は?」。返事がない。「名前、あるんだろ?」(3枚目の写真)〔祖父が孫の名前すら知らないということは、これまで、息子との関係が断絶していたことを意味する〕。結局、ここまで、少年は一言も口をきいていない。エラスムスは、孫のためにイスを持ってこさせる。ポールの助手が、「君の持ち物、それだけ?」と訊く。返事がないので、エラスムスがポリ袋の中を見ると、入っていたのは、お札と、1袋のコカインだけ。エラスムスは、テーブルの全員に聞こえるように、「皆さん、この小さな男性〔chap〕は、私の孫のように思われます〔it would appear〕」と突発事態を報告する。
  

この発言に驚いたのはポール。エラスムス以上に、寝耳に水だったからだ。そこで、エラスムスを館に連れて行き、2人だけで話し合う。「孫があったのか?」。「信じられないだろ?」。「息子があるって数年前に聴いただけだぞ」(1枚目の写真)。「あいつとは疎遠になったんだ。話しただろ」。「あんまり」。「80年代に戻るが、試しに女性と付き合って赤ん坊ができた。彼女が育てたがった。名前はボー。麻薬で問題を起こして放校。ニューヨークで私の出版祝いの時、過剰摂取をやらかした」。ここまで、過去の話が進んだ時、ポールは、「今、どこにいるんだ?」と訊く。「書き置きによると、刑務所のようだな」。そうなると、少年の行き先が問題となる。ポールは、「ここに、子供は置けない。あの、ヨークシャーテリアですら、ダメだった。幸い、コヨーテが始末してくれたが、子供は そうはいかん」。「落ち着け。ソーシャル・サービスが何とかしてれくれるさ」。2人は、パーティに戻る。テーブルでは、親切そうな女性が、「何が食べたいか、言ってご覧なさい。誰か作ってくれるわ」と話しかける。少年は、初めて口をきく。「タコベルが食べたい」(2枚目の写真)〔メキシコ料理のチェーン店。日本にもある(東京と大阪)〕。ポールの助手が、「キッチンに行ってみよう」と言って少年を連れて行こうとすると、少年は「僕に触るな!」と手で撥ね退け、その手が隣の市長の頬を直撃する(3枚目の写真、矢印)。以上のことから、少年は、タコベルのメキシコ料理が大好きで、触られえること(ホモ)が大嫌いだと分かる。戻って来たエラスムスとポールは、その惨状を見て、来客の失礼にならないよう、会場の盛り上げに必死になる。
  

ポールの助手が、空いている寝室に等身大の仔馬の縫いぐるみを運び込み、子供部屋らしくする。ポール自らも、それに協力する。準備が整ったところで、パジャマに着替えさせられた少年が入って来る。すると、エラスムスが、「これぞまさしく、『エラスムスは偉大なり』と言える瞬間だ。5つ星のリゾートの気分じゃないか!」と自画自賛する。少年は、正面にいるポールに「バカみたい」と言っただけ(1枚目の写真)。ポールは、少年に触らないように、「さあ、ほら、寝る時間だ」とベッドに行くよう指示する。少年が横になったのは、キングサイズのベッドの右端。ポールが、「照明はどうする、消すのか?」と訊いても、「知るもんか〔I don't care〕」とぶっきらぼうに答える(2枚目の写真)。可愛げゼロだ。それを聞いたエラスムスは、「そんな言い方ないだろ。人生ではどんな些細なことでも常に情熱を込めて考えなきゃいかん」と注意するが、無視されただけ。部屋を出たポールは、「我々の部屋に鍵をかけないと。あのガキは何するか分からん」と危機感を顕わにするが、エラスムスは、「可愛い子じゃないか」と弁護。ポールは、「ジェフリー・ダーマーだって、犠牲者をレイプして殺すまでは可愛かったんだぞ」と牽制する〔ジェフリー・ダーマーは、17人の青年を史上稀な残虐な方法でレイプ・殺害あるいは生きたまま脳に塩酸をかけてゾンビ化しようとした上、血を飲み死体を食べ、一部を記念にと冷蔵庫に入れておいた有名な殺人鬼〕。2人はベッドに入り、話し合いを続ける。「一時的な措置じゃないか」。「もし、そうならなかったら?」…。そのうち、ポールが、「何か盗んでないか調べないと」と言い出し、こっそり寝室を見に行くと、少年の姿がない。家中捜し回った結果、少年は、玄関の前に停めた車の後部座席で眠っていた。ポールがドアを開け、揺すって起こすと(3枚目の写真)、少年は急いで座席の反対側に逃げ、「僕から離れてろ、このホモ〔fag〕!」と文句を言う。
  

翌日、2人は街を歩きながら話している。ポール:「弁護士は何て?」。エラスムス:「親権は父親にある。母親は死んでる。そのうち、ソーシャル・サービスから誰か来るだろう、って」。「我々にはガキの面倒はムリだ。ガキなんか嫌いだ」(1枚目の写真)。「ガキ〔kid〕呼ばわりはやめろ。子供〔child〕だ。“kid”は子ヤギのことだぞ」。「子ヤギの方がまだいい。可愛いからな」。「子ヤギは、年取って寂しくなった時 訪ねてくれないぞ」。ポールの方が、常に現実的だ。「子供が嫌いな訳じゃない。ただ、一緒に住みたくないだけだ」と断った上で、「何れにせよ、学校に通わせないと」と指摘する。「それが規則だ。それに、日中、いなくなるだろ」。2人は、少年を車に乗せ、Wood Cormley小学校に連れて行く(2枚目の写真)〔車は リンカーン・ナビゲーター〕。この小学校は実際にサンタフェにあり、外観はこの写真と同じなので、現地ロケだ。3人が、玄関の脇にある事務室に行き、エラスムスが、「この子を入学させたいんですが」と言うと、親切そうな女性が、「いいですよ、お名前は?」と訊く。少年は無言(3枚目の写真)。ポールは、「失礼しました」と言うと、3人で家に戻る。
  

エラスムス邸には、本人の趣味で「証明写真ボックス」が置いてある。少年をそこに座らせてみるが、仕上がった4枚の写真を見ると、どれも同じ無表情の顔ばかり(1枚目の写真)。そこで、「もっと楽しまないと。いろんな表情をしてご覧」と言い、ボックスに並んで座る。エラスムスは、最初は幸せな顔、次は怒った顔(2枚目の写真)、3つ目はバカな顔、4つ目は何かを考える顔をする。少年の無表情は変わらない。出てきた写真を見てエラスムスはがっかりする。「何がしたいんだ?」。少年は初めて反応し、エラスムスの顔を見る(3枚目の写真)。
  

少年の希望で、エラスムスはスーパーに連れて行く。そして、カートの前に座った少年が指差すものを、どんどんカートに入れていく(1枚目の写真)。結局、レジに並んだものは、「Xbox One」〔TVゲーム〕用のワイヤレス・コントローラー、ナーフ社の水鉄砲や剣などの玩具、オレオのバニラクリームやメイナーズの酸味パッチなどのお菓子、それに、エラスムス用のテキーラなどの酒類。あまりの数の多さに、レジ係は「パーティでも?」と笑顔で尋ねる。郊外に向かう車の中で、少年はサンルーフから胸から上を出す(2枚目の写真)。太陽の位置から、夕方が迫っている。次の場面は、エラスムスの寝室。少年がTVの前に陣取り、買ってきたゲーム機で遊んでいる(3枚目の写真、矢印/イスの周りはお菓子で一杯)。CMフィルムの編集から戻って来たポールに、エラスムスは、「セリリョスにあるウェイ・マートだかモール・マートだとか知ってるか?」と訊く〔セリリョスは、サンファンのアルバカーキ寄りにあるので、少年が教えたのであろう。店の名はモールプラザという巨大複合ショッピングセンター(駐車場を含め560m×500m)/ららぽーとTOKYO-BAYで560m×230m〕。そして、「ニルヴァーナ(至福の境地)だった。どれもこれも安くて、興奮のるつぼだった」と褒めちぎる。ポールは、そのプラザのオーナーが大嫌いなので、話には乗らず、少年を指して、「ベッドに行くべきだ」と言う。「どうして?」。「午前2時なんだぞ」。「朝、学校がある訳じゃない」。「分かってる。名前が分からなくて、入学できなかったからな」。そして、少年に寝るよう、強く指示する。エラスムスが「マニャーナ・ピラナ(また明日な、ピラニア)」と手を振ると、少年も手を振るので、何でも買ってくれたエラスムスが気に入ったようだ。
  

翌日、3人は刑務所に行く。目的は少年の名前を訊き出すためだ。ポールと少年は面会室に行かず、エラスムスだけが少年の父と面会する〔ガラス越しに、電話で〕。父:「ガキは無事着いたんだな?」。「ああ、今、そこで待ってる」。「あいつを連れて来たのか?」。「もちろん。会いたがってたぞ」。「何 考えてる? こんな姿見られてたまるか」。一方、待合所では、ポールが「ロロ、欲しいか?」と、キャラメルを渡す。少年は、1個奪い取ると、包装紙を床に捨てる(1枚目の写真、矢印)。ポールは、「それは ポイ捨てだ〔littering〕」と批判する。「だから?」。「やっちゃいかん。拾うんだ」。少年は無視。仕方なく、ポールが床に落ちた紙を拾う。面会室では、エラスムスが、ポールと2人で面倒を見てやっていると言い〔ポールとは10年間一緒に暮らしていることが分かる〕、「お前がいない間、世話するから安心していいぞ」と述べた後、電話を通しての会話なので、感謝の言葉があると思い、先に、「感謝には及ばん」と言ってしまう。父は、「なんで俺があんたに感謝するんだ?」と反論する。「俺が10歳の時、あんたどこにいた? 俺にとってあんたは親爺なんかじゃない、ただの最後の手段〔last resort〕だ」と言って、一方的に電話を切る。エラスムスは、大事な用件をストレートに話せない男なので、事ここに至って、ようやく、ガラス越しに、「待ってくれ。あの子の名前は?」と訊く。「聖書に書いただろ」と言う声がかすかに聞こえる(2枚目の写真)。待合室に戻って来たエラスムスは、自分の失敗を隠すため、「今日は、子供の面会は許されないそうだ」と嘘をつく。ポールが、「だけど、受付の女性は…」と言いかけると、「追加の書類がないと」と、嘘に嘘。それを聞いた少年は、父と会えないと分かり がっかりする(3枚目の写真)。ポールは、「ゲームセンターに行ってアイスクリームを食べよう」と言って少年を慰める。
  

帰宅したエラスムスは、改めて聖書の走り書きを読んでみる。「俺はボーだ。覚えてるだろ? これは、あんたの孫だ。お袋は死んだ。俺は監獄行きだ。その子の面倒を見てやってくれ。その子は天使だ」(1枚目の写真)。最初、エラスムスは、「天使」を「可愛いわが子」という意味だと思って読んだ。しかし、先ほどの面会の最後の言葉から、「その子の名は、エンジェルだ」と書いてあるのではないかと思い当たり、後ろにいた少年に、「君の名はエンジェルか?」と訊く。少年は、「YES」という意味で、疎ましげな目で睨んだだけだった(2枚目の写真)。エラスムス:「なぜ、話さなかった?」。「嫌いなんだ」。ポール:「エンジェルのどこが悪い?」。「ゲイだ」。ポール:「そうかもな」。エラスムス:「何て呼んで欲しい?」。「ビル」。「じゃあ、ビルにしよう」。ポールは、「この子が変えたがっても、名前はおいそれと変えられないぞ」と言う。「何で」。そこで、ビルが口を出す。「そうだよ、何でさ?」。「分かった、ビルでいい。だけど、なぜ最初からそう言わなかったんだ?」。「今、思いついた」(3枚目の写真)。ポールは、最初から名前を言っていれば、2週間無駄にならなかったと言うので、ビルがエラスムス邸に来てから2週間も経ったことになる。
  

同じ日か、別の日の夜。料理の並んだ食卓にはエラスムスとビルと2人しか座っていない。エラスムスは、スマホでタコベルに電話をかけ宅配を頼むが、断わられる。そして、ポールとは連絡がつかない。エラスムスは、「トルティーヤ付きのコチニータ・ピビル〔ユカタン風豚肉蒸し〕を作ってやったじゃないか」と言うが、ビルは、「タコベル」の一点張り(1枚目の写真)。エラスムスは、「全面降伏だ」と言うと、車に乗せてタコベルの店に向かう。2人とも、サンタフェのどこにタコベルがあるか知らなかったが、無事に見つけ出すことができた(2枚目の写真、矢印は飛び上がって喜ぶビル)。ビルが注文したのは、クランチラップスプリーム(ベーコン入り)(右上写真)と、ナチョス・ベルグランデ(右下写真)。大した食欲だ。一方、エラスムスは、注文を聞かれても、CM撮影のように感想を述べるだけ。そのうちに、エラスムス・ファンの店員が現れる。テーブルについた2人。載っている食材は2つだけなので、結局、エラスムスは何も注文しなかったことになる。ナチョス・ベルグランデを食べていたエラスムスは、ビルから、「気に入った?」と訊かれ、「光が見える」と答える〔常に表現がオーバー〕。「何て?」。「考えてご覧。今までで一番幸せに感じたのは?」。「パパが山に連れてってくれ、一緒にリスを撃った時」。「私にとっては、君と一緒にこれを分け合っている今がそうなんだ」。
  

2人が帰宅すると、真っ暗な中にポールが座っている。エラスムスが、「こんな暗いとこで、どのくらい座ってたんだ?」と訊くと、ポールは、嫌味を込めて、「10年かな?」と答える〔一緒に住み始めてからずっと、という意味〕。エラスムスは、少しでも宥めようと、「君がいなくて悪夢のようだった。ビルと私は、目を泣きはらしてたぞ。そうだよな、ビル?」。しかし、ビルには複雑な関係など分からないので、「ううん、最高だった。タコベルに行ったんだ」と正直に答える。がっかりしたエラスムスは、「もうベッドに行ったらどうだ」と、早くポールと2人きりになろうとする(1枚目の写真)。ビルがいなくなってポールが口にした最初の言葉は、「我々にガキは持てない。自分達の方がガキだから」というもの。エラスムスは、ポールのことを、「旧石器時代のずうたいの大きな獣のような男」「誰よりも広い心の持ち主」と讃え、2人はようやく仲直りのキスを交わす。そこからは、キワどいコメディー。2人が、ウンウン唸ってアナルセックスをしていると、ビルは、2人に何か起こったのではないかと心配し、寝室の前まで行き、ドアをノックして、「大丈夫なの?」と訊く(2枚目の写真)。エラスムス:「順調だぞ」。「チャンキーモンキー〔バナナアイス〕、食べていい?」。「もちろん」。「どこにあるの?」。「キッチンの冷凍庫の中だ」。「見たけどなかった」。たまりかねたポールが口を出す。「違う、カレージの冷凍庫だ!」(3枚目の写真)「ケビン・コスナーの写真がペタペタ貼ってある」。「ケビン・コスーって、誰?」。プライバシーのない生活は確かに辛い。
  

翌朝、ポールは目覚ましで起きる。「ランチを作らないと」(1枚目の写真)〔起きた時間が遅くて昼食間近?〕。エラスムスは起きそうにないので、ポールがキッチンに行く。食卓の反対側に座ったビルは、「タコベル」と言う。ポールが、「ペパロニ・ピザ〔サラミのピザ〕」と、冷凍ピザの箱を見せるが(2枚目の写真)、「いや」の一言。ポールは、以前ビルがスーパーで買ってもらった酸味パッチを見せるが、「キャンディーはデザートだ」と言われてしまう。ポールは、仕方なく、ビルをタコベルに連れて行く〔車は、メルセデスE300クーペ・スポーツ〕。すると、まだ朝食の時間だと言われる〔タコベルの朝食時間は7-11時〕。「あと、どのくらい?」(3枚目の写真)。「45分です」。「何てこった」。2人はそのまま店の前で45分待つ。時間になるとポールはレジで、ビルの好きなクランチラップを20個注文する。「なぜ20個も買ったの?」。「冷凍しておけば、毎朝食べれるだろ」。「うまくいかないと思うけど」。ビルは、問答無用で学校に行かされる〔ビルという名前で学校に行くことができた/お昼の時間に登校というのも変な話〕
  

エラスムス邸では、5人の友人を呼んで食事とお酒の会が催されている。ビルも同席している。ポールが、「なぜ君は、ディナーなのにレギンズを履いてるんだ?」とエラスムスに訊くと、「ロイ・ロジャースが履いてたろ」と答え、ビルがコヨーテの鳴き声を真似する〔よく分からないが、ロイ・ロジャースが主演したディズニーの漫画映画『ペコス・ビル』(1948)に由来しているのかも〕。エラスムスは、さらに、「転生は信じてないが、前の人生では牛飼いだったんじゃないかと思う」と言い、座を賑(にぎ)わす。客Aが、「ビル、今、楽しいかい?」と訊き、ポールの助手が、すかさず、「いつも何時に寝るんだい?」と、早く寝るよう促すが、ビルは「寝たい時」と、そのまま居座ることを宣言。客A:「私なら、エラスムスとポールの孫なりたいな」。客B:「エラスムスの料理は好きかい?」。「ううん、サイアク」。B:「パパはどこかな?」。「刑務所だよ。売春婦を殴ったから」。A:「じゃあ、ママはどこ?」。「麻薬中毒で、ある晩、たくさんとり過ぎてバルコニーから落ちた。4階だった」(1枚目の写真)。全員が、バツが悪くて黙り込む。ポール:「その時、君は どこにいた?」。「隣の部屋」(2枚目の写真)。これで楽しい会は、お通夜のようになった(3枚目の写真)。ポールは、ビルに同情し、テーブの上に置かれた手に、自分の手を重ねる。
  

それからまた何日かして、朝早く、寝ていたポールはドアのチャイム音に起こされる。ぼんやりした頭で玄関まで行くと、それは、ようやく現われた児童保護サービス(CPS)の女性(メリッサ)だった。ポールは、急にしゃんとなって招じ入れる。「これは、ひとり親が逮捕された場合に州のCPSが行う訪問の1回目です」。「彼なら、もう10週間 ここにいますよ」。「未処理案件が多くて」。そこに、下着姿のエラスムスが現われて、「それ、誰?」とポールに尋ねる。保護責任者としては、あまり望ましい姿ではない。しかも、2人はビルがどこにいるかも知らない。そこで、まずコーヒーを出して時間を稼ごうとキッチンに行くと、ビルがシリアルを食べている(1枚目の写真、矢印はメリッサ)。ポールとエラスムスがホッとしたことは、言うまでもない。メリッサは、「今日は」とビルに声をかけ、ポールは、すかさず、「彼は、ビルと呼ばれたがってます」とサジェストする。次のシーンは、メリッサによるビルとの面談。ビル:「毎朝 学校に送って、午後には、迎えに来てくれるよ」。「2人で?」。「ううん、いつもポール」。「家にいて、怖いこととか、不安になったことはない?」。「ううん」。「本当に?」。「たとえば?」。「叩かれるとか、怒鳴られるとか」。「ないよ」。「まごつくようなものを見たことは? 何かこう…不愉快な気分にさせるような」。「ないよ」。「話したくないようなことが、あるんじゃないの?」(2枚目の写真)「何でも話していいのよ」。「見せるだけじゃダメ?」。ポールとエラスムスが居間で待っていると、メリッサに呼ばれる。そこは、2人のDVDがぎっしり並んでいる場所だった。その多くはポルノだったので、「子供にポルノを渡してはいけません」と注意される。鍵がかけてあると抗弁するが、鍵がささったままなので、この抗弁は認めてもらえない。その時、ビルが、「僕、『ET』を探そうとしただけなんだけど」と、バツが悪そうに口を出す(3枚目の写真)。メリッサは出て行く時、ファーストフードではなく、栄養価のある手作りの料理をビルに食べさせるようアドバイスする。
  

2人は、小学校の担任にも呼ばれる。そこで2人が見たものは、ビルが遊び場で1人孤立している姿。何とかしろと担任に言われた2人は、学校を出た後、口論になる。特に文句を言ったのはポール。エラスムスの孫なのに、朝早く起きて朝食やランチを作り、学校まで送り迎えしているのはポールだからで、溜まりに溜まった鬱憤が爆発する。エラスムスは、いつも通り、突飛なことを言い出す。「パーティをやろう! ビルの誕生日パーティだ」。「誕生日なのか?」。「どうだっていい。だが、類型を打破する必要がある。あっと言わせる演出だ」。そして、ビルの「誕生」パーティの日。それは、突拍子もないものだった(1枚目の写真)。池の中では、プロのアーティスティック・スイミングの演技が行われている。大人だけではなく、子供たちにも大人気だ。大きなボールプールの中で、1人の少年が、ビルに、「これ君のパーティ?」と訊く。「そうだよ」。「パパが2人いるの?」。「ううん。よく分かんない。そうかも」。少年が、手に持っていた紙コップをボールの中に捨てると、「ポイ捨てじゃないか」と言ってコップを拾う。「だから?」。「ここじゃ、しないんだ」(2枚目の写真、矢印)と、紙コップを渡す。ビルは、刑務所の待合室でポールに言われたことをちゃんと覚えている。パーティのシーンは結構長いが、ビルが出てくるのは、先ほどのボールプールと、ソファを揺らす遊び(3枚目の写真)の2場面だけ。
  

恐らく次の日。迎えにきたポールの前で、ビルが2人の少年にさよならを言っている(1枚目の写真、矢印は友人)。パーティの効果は即効的で、ビルは孤独な少年ではなくなった。ポールが先導して車の方に歩いて行くと、無謀なバイクがぶつかりそうになり、ポールはビルを抱き寄せて庇う(2枚目の写真、矢印はバイク)。ポールは、ビルが心配なので、車まで手を握って連れて行こうとするが、ビルは触られるのが嫌いなので、手を放そうとして喧嘩になる。「手を取れ」。「イヤだ」。「死にかけたんだぞ」。「構うもんか!」(3枚目の写真)。「構うんだ。君は子供だ! だから、言われた通りにしろ!」。「くたばれ!」。ところが、ポールは発作を起こし、呼吸ができなくなる。ポールは自ら救急車を呼び、心配になったビルも一緒に救急車に乗る。診断は、単なるパニック障害だった〔救急車を呼んだのは、これが9回目〕。家に戻ったポールは、エラスムスに慰められるが、いつも飲む薬〔パニック障害なのでSSRI、抗不安薬、TCAの何れか〕が、どこを探しても見つからない。
  

翌朝、ポールが起こしに来ても、ビルは眠たくて起きられない(1枚目の写真、矢印は鞄)。ポールは、ベッドの柱にかけてあった鞄を持ってキッチンに行く。そして、中にあったランチボックスを取り出した時、鞄の奥に自分の薬が入っているのに気付く。ビルが起きて来ると、キッチンにはポールとエラスムスが怖い顔をして待っていた。ポールは、指に錠剤を挟んで見せ、「僕の抗不安薬が、何で君の鞄の中に入ってるのか、聞かせてもらおう」と詰問する(2枚目の写真、矢印は錠剤)。エラスムス:「取ったのか?」。「違う」。ポール:「じゃあ、どこにある? ビンごと なくなってるぞ」。「持ってない」。エラスムス:「どうするつもりだったんだ? 言うんだ! これは重大だぞ」。ビルは白状する。「中学の子に売ったんだ」。エラスムス:「ああ、ありがたい」。ポール:「ありがたい?」。エラスムス:「少なくとも、自分で飲んでない」。ポール:「どこで、抗不安薬を売るなんてこと、思いついた?」。エラスムス:「父親だ」。ポール:「そうか。如何にもありそうだな」。エラスムス:「何のためにやったんだ?」。ビル:「お金が欲しかった」。ポール:「何のために? 何でも欲しい物、買ってやってるだろ?」。ビル:「お金が欲しかったんだ、もしも…」。エラスムス:「もしも、何だ?」。ビル:「もしも、メリッサに連れてかれた時のためだよ」。これを聞くと、2人は叱れなくなる。ポールは、「いいか、君はどこにも行かん。そんなことは、させん。約束する。分かったか?」と真剣に言い(3枚目の写真)、ビルも頷く。「薬を取らないと約束したら、週100ドルやる」。エラスムスは、「待てよ、50だ」とケチるが、ビルは、「分かった。100にしてよ」と再値上げ。これで、めでたく協定は成立する。ビルの存在を嫌がっていた初期の頃と比べると、状況は全く違ってきている。
  

そこから、ビルのその後が、ワン・カットずつ簡単に紹介される。アトリエに連れて行ってもらった時は、展示された品に触っていて落としてしまい(1枚目の写真、矢印)、帰りの車の中で、買い取った「壊れた展示品」と一緒に 神妙な顔で座っている。メリッサが調査に来た時には、印象を良くしようと、手作りの食事でも嫌がらずに食べる(2枚目の写真)以前座った時には無表情の極みだった「証明写真ボックス」では、3人でふざけて笑いこける(3枚目の写真)。
  

最後の傑作は、小学校のクラスでの作文発表会。テーマは「両親」。黒板の前に立ったビルは、作文を読み上げる。「僕は、ポールとエラスムスと暮らしています。2人は、僕のパパではありません。でも、パパの代わりに 何でもしてくれます。2人はゲイです。昔は、ゲイは違法でした。ゲイの人達のことを話す時、使ってはいけない言葉があります。『オカマ〔faggot〕』と言ってはいけません」(1枚目の写真、矢印は作文の紙)「『フェラチオする人〔cocksucker〕』は絶対ダメです」。ここで、教師が、「ビル!」と注意する。「そして、何があっても使ってはいけないのは…」。「ビル、やめなさい!」。「『アナルセックスする人〔buttfucking〕』です」。生徒達は大喜び(2枚目の写真、矢印は教師)。ポールとエラスムスは、すぐに呼び出しを受ける。ビルの書いた作文を渡された2人は、最後まで読むと笑い出す(3枚目の写真)。教師は、「ビルは、どこで、こんな言葉を覚えたんでしょう?」と尋ねる。エラスムスは、「我々には、こんな言葉を使う癖はありません」と否定するが、教師は、「私には想像がつきます」と疑惑を2人に向け、それに対し、エラスムスは、「こんな言葉を使うのは好きじゃありませんが、『ナベがヤカンを黒いと言う(目くそ鼻くそを笑う)』状況ではないでしょうか」と揶揄する。これは、教室のボードに貼ってある紙に「felching(一度男ないしは女の体内に放出した精液を吸い出すこと)」と書いてあるとエラスムスが見間違えたための大失言。実際には「felting(フェルト地)」と書いてあり、エラスムスは恥の上塗りをする。そこに、幸い電話がかかってきて、次の場面に移行する。
  

それは、刑務所からの呼び出しだった。前と違い、今回は、ビルを含めた3人で、ビルの父とガラス越しに面会する。父:「元気してるか、エンジェル?」。エラスムス:「どうだったか話してやれ、ビル」。ビル:「いいよ」。ポール:「ビルと呼んで欲しいとさ」。父:「ビル? そうなのか? ママは天使が大好きだったから、エンジェルって名付けたんだ」。父は、3人が想像しなかったことを話し始める。「俺は、ここですごくおとなしくしてた。教会にも行って、気分が一新した」。そして、その結果、牧師の嘆願もあり、刑期は大幅に短縮され、「新年の前にはここを出られる」ことになった。問題はその後で、父の身元引受人はアリゾナ州の教会で、刑務所を出たら、ビルと一緒にアルゾナに行き、牧師の下で働くという内容だった。アリゾナ州は、3人がいるニューメキシコ州の隣なので遠く離れる訳ではないが、一緒には住めなくなる。それは、3人にとって大問題だった(1枚目の写真)。面会を終えた後、ビルは、「もし、ここに残りたかったら?」と、父よりも2人を選びたいと、初めて口にする(2枚目の写真)。エラスムスは、「万事うまくいくだろう」と言うが、そんな言葉など信用できないビルは、「でも、連れてかれるよね?」と訊き直す。エラスムスは、「今から言うことをずっと覚えていると約束できるか?」と、もってまわった言い方をした後、「すべては一時的だ〔Everything is temporary〕」と言う(3枚目の写真)。「一時的」は、アリゾナにいる期間とも受け取れるが、父と別れてエラスムス達と暮らしたのが「一時的」とも解釈できる。ポールと違い、エラスムスは「口だけ人間」なので、真意は分からない。
  

クリスマス・イヴの日。エラスムス邸では、例年にない大きなクリスマスツリーがビルのために用意された。ビルは、時間が早いが「1つプレゼントを取っていいぞ」と言われ、「3つでは?」と欲張り、許される。そして、3つのプレゼントを抱えて車に乗りタコベルに行き、最後は、教会で行われたキリスト生誕劇で合唱に加わる(1枚目の写真)。外に出るともう真っ暗。3人は、クリスマス・イルミに彩られた街を楽しそうに歩く。すると、その前に、退所した父が立ちはだかる(2枚目の写真)。エラスムス:「出してくれたのか?」。父:「メリー・クリスマスだ」。そして、「こっちに来て、ハグしてくれ」とビルに言う。その後、車のところで激しい口論が始まる。父は、すぐにでも息子を連れてアリゾナに行こうとし、エラスムスはクリスマスの前に連れていくのは可哀相だと反対する。結局、「頼む。せめて一晩だけでも いさせてやってくれ」の言葉に折れ、4人揃ってエラスムス邸に行く。ビルは、残りのプレゼントを朝まで待たずに開けることができ、如何にも嬉しそうだ(3枚目の写真)。そして、12時をまわりポールが眠っていると、外で車の出て行く音がする。ビルの部屋に行くと、誰もいない。父は、12時を過ぎたので、約束は守ったと思い、ビルを連れてアリゾナに向かったのだ。エラスムス:「(ビルに)さよならも言えなかった」。ポール:「僕もだ」。その後、2人の楔がいなくなったことで、エラスムスとポールの関係は破綻の危機に瀕するが〔新しい仕事に就くためニューヨークに行こうとする〕、ポールの犠牲的精神で何とか元の鞘に収まる。
  

突然の別れからどのくらいの時間が流れたのかは分からない。数週間か数ヶ月か? ある夜、父が泥酔状態で車を運転し、時々、目をつむってウトウトしている。ビルは、そんな父を見てハラハラする。車が反対車線に飛び出し、対向車のヘッドライトが顔に当り、ビルが叫ぶ(1枚目の写真)。ハンドル操作を誤った父は、路肩に駐車していた車に衝突する。ポールのスマホに事故の一報が入り、2人は病院に急行する。病室で寝ていたビルは、ポールの首に手をまわす。後から入って来たエラスムスは、ビルの胸に頭を置く(2枚目の写真)。このあたり、台詞が全くないが、映像から、エラスムスとポールは、ビルの親権をめぐり裁判を起したことが分かる(3枚目の写真、父は刑務所に収監されているので赤い服)。裁判は、2人が勝訴する。
  

裁判所から出た3人は、仲良く並んで歩く。エラスムスは、「法廷メロドラマの後は、腹が空くな」と言う(1枚目の写真)。ポールは、ビルに、「君はどうだい?」と訊く。「僕も お腹空いた」。「じゃあ、食べに行こう」。最後は車の中。ビルは、自分が将来にわたって2人と一緒に暮らせることが確定し、満ち足りた気持ちでいっぱいだ(2枚目の写真)。この後、寿司に関する会話があるので、紹介しよう。ポール:「今日は疲れた。寿司でもつまみに行こう」。エラスムス:「スーパーの寿司は、神が人間に与えたゴミだ。この国をダメにしてる」。「誰がスーパーの寿司だと言った。僕は、スーパーで寿司なんか買ったことがない。真夜中で、酔っ払っていて、記憶がなければ、買ったかもしれんが」。「私は、少しなら自分で寿司を作れるぞ。世界的な寿司のシェフの1人から教わったんだ」。「アルバカーキのウィリアムズ・ソノマでやったショーのことだろ。一緒にいたじゃないか」。そのあと、少し話が逸れ、ビルが、「ねえ、なぜ僕にも訊かないの?」と声をかける。「だって、タコベルに決まってるだろ」。「ううん。好きなことは変わりないけど、今夜は別のものが食べたいんだ」。「何だい?」。「豚ヒレ肉のステーキだよ。キャラメルアップルとジンジャーを付けたやつ。それに、ポレンタ〔コーンミールを粥状に煮たイタリア料理〕と山羊のチーズかな」。ポール:「我々、モンスターを創ってしまったな」。エラスムス:「いいや、私が創ったんだ」。
  

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